いきものがかり × プリキュア
スペシャル対談
いきものがかり × プリキュア
スペシャル対談
2023.10.27
――インタビュー前編では「ときめき」の制作裏話を伺いましたが、今回は「うれしくて」について教えてください。
この曲に対しては、まず鷲尾さんからどんなオーダーを出されたのでしょう?
鷲尾:
実は当初は「ときめき」の一曲だけを作っていただくというお話だったんです。でも、「ときめき」がものすごく素晴らしくて、だんだんと私も欲が出てきてしまいまして(笑)。関係者の方にダメ元で聞いてみたんですよ、「20周年は映画も賑々しくやるので、そちら用にもう一曲お願いできませんか……?」って。そうしたら、なんとご快諾いただけて!
自分からお願いしておいてなんですが、「いや、嘘ですよね!?」とビックリしました(笑)。
「ときめき」のときは「“自分”を大切にしてほしい」とお話したのですが、2曲目に関してはそれとは真逆のことをお願いしているんです。「プリキュア全員が出てくる映画なので、“皆がいることの意味”を意図してほしい」と。
本当に、我ながら都合のいいことを言っているなぁと思いますね(笑)。
――そんな鷲尾さんのお話を受けて、水野さんはどのように楽曲を作っていかれたのでしょう?
水野:
最初の話し合いのとき、鷲尾さんは「それぞれに個性があるたくさんのキャラクターが協力し合って一つのことを成し遂げるというストーリーだけど、みんなが個性を失って一つになるのではなく、“バラバラのまま手を携え合う”ということを描いていく」とおっしゃっていたんです。
僕はそれにすごく共感しまして、「自分と異なる存在である他者とも勇気を持って繋がり合う」ということを、柔らかく、でもしっかりと書くことができたらいいなと思いました。
あとは、オールスターズの壮大な感じですね。プリキュアが活躍するシーンで流れたときに子どもたちが「わぁ!」と思えるような、憧れを与えてくれる曲想にしたいということもと考えていました。
鷲尾:
歌詞の中に「“わかりあうこと”だけじゃ拾えない “わかりあえないこと”を大事にして」というフレーズを入れてくださったのですが、それはまさに、『オールスターズ』シリーズの第一作『映画プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』のときに考えたテーマそのものなんです。
世代の違う全員が集まることの意味とは何かと、当時、大塚隆史監督や脚本の村山功さんとたくさん話し合いを重ねて、「それぞれ違う個性があるからこそ、集まる意味がある」という結論にたどりつきました。そのテーマは『オールスターズ』シリーズに連綿と受け継がれていて、今回の映画(『映画 プリキュアオールスターズF』)も同様です。
ただ、水野さんと打ち合わせをしたとき、やっぱり私はそんなに丁寧に説明できていなかったんですよね(笑)。なのに、それをこうして歌詞の中にしっかりと入れ込んでくださって。そのことにまたまた驚かされました。
あと、『プリキュア』20周年全体のテーマが「手を繋ぐ」なんですよ。初代の変身も手を繋ぐものでしたし、『プリキュア』という作品が続いていく中で、関係者の皆さんも含めていろいろな方と手を繋いだことによって成立できたことは山ほどありましたから。そのテーマもしっかりと入れていただき、本当にありがとうございました。
水野:
僕らもまさに今回、手を繋いでいただいた側なんですよね。
20年という歴史を考えると、本当にとてつもない数の人が『プリキュア』という大きな物語の中にいて。その上でさらに初めての相手である僕らにも手を伸ばしてくれて、大切な作品のメッセージを預けてくれた。それがこの素敵な出会いに繋がっているので、改めて今回、呼んでいただけたことがありがたいなと感じています。
――水野さんは音楽、鷲尾さんはアニメと、ジャンルこそ違いますが共に“ものづくり”に携わっているお二人。それぞれのものづくりの姿勢についてもお伺いできればと思います。
楽曲を作る上で、またアニメを作る上で、お二人が特に大切にしていることはありますか?
鷲尾:
「子どもたちが生涯忘れないような作品を作りたい」という想いは、20数年前に東映アニメーションの採用試験を受けたときからずっと持ち続けているものですね。なぜそう考えるようになったかというと、まさに自分がそうだったからなんです。
私は昔から歌がすごく苦手だったのですが、小学校高学年のときの音楽の授業で、一人ずつみんなの前で歌を歌うというテストがあったんです。みんなは「翼をください」や「グリーングリーン」など授業で習った曲を歌うけど、私は歌えなくて。それで何をしたかと言うと、『サイボーグ009』の歌を歌ったんですよ(笑)。
水野:
いいですね!(笑)
鷲尾:
まさかアニメソングを歌う人がいるとは思わなかったのでしょうね、先生もみんなも呆然としていて。そのときのことは本当に忘れられません(笑)。そのぐらい、子どもの頃の印象深い出来事ってずっと記憶に残り続けるものなんです。だから、私もそういう印象に残るような作品を作りたい、と。その想いは入社時から一貫して持ち続けています。
また、子ども向けの作品を作るとき、「大人の目線は気にせず、とにかく子どもが喜んで観てくれるものを作りたい」ということもいつも考えていますね。例えば『プリキュア』では、〝大人が理想とする子どもの姿〟を押し付けるのではなく、子どもが喜んで観てくれるものにしたいと思っていました。
そうして楽しんで観てもらったものが記憶に残って、その子が大人になって思い出したときに子どもの頃は理解できなかった意味を感じてもらえたらいいな、と。その想いは(『ふたりはプリキュア』のシリーズディレクターである)西尾大介さんとも一致していて、『プリキュア』シリーズはそこから始まったんです。
水野:
とても素敵なお話ですね!
僕は「自分を超えるものを書いておきたい」という気持ちが強くあります。
歌って、運が良ければ100年後にも残る可能性もあるし、なんなら今現在も僕が会ったこともない方が、その人自身の気持ちを重ねて聴いてくれている。それは自分だけでは決してできないことなので、「自分という人間の限りを越えていく」ということが大事なんだと思っているんです。
なので、もちろん自分の気持ちも出てはしまいしますが、自分を表現するというよりも、どれだけ皆さんが気持ちを漂わせることができる場を作れるかということを一番に考えて曲を作るようにしています。
鷲尾:
今回ご一緒させていただくに当たって、いきものがかりさんの曲をたくさん聴かせていただいたのですが、歌っている吉岡さんの脇に必ず誰か人の姿が浮かぶんです。いきものがかりさんの曲は全部“相手がいる曲”なんだと感じました。
吉岡さんの歌声って、隣に座っている人が愚痴や悩みごとを言っているのを隣でふんふんと聞いてくれているようなイメージなんですよね。優しくて柔らかくて。そして、それが水野さんの曲や詞と重なり、聴いている側は素直な気持ちになれるんだと思います。
「自分の主張を聞いてくれ!」ではなく、聴く人に寄り添い続けるということを第一線でずっと続けていらっしゃるのが、改めてすごいことだと感じますね。
水野:
吉岡ともよく話しているんです、「いきものがかりの曲は“私はこう思っていて、私はこうなんだ”と伝える歌ではないよね」「自分の主張を伝えるのではなく、できあがった作品や曲を聴いてくれる人の隣にそのまま届けるような形で歌いたい」って。
それは3人時代からずっと変わらずに思い続けていることで、どうしたらそれができるのかと考えながら彼女も歌っているし、僕も曲を書いてきました。それを読み取っていただけて本当にうれしいです。
――改めて、今回のコラボレーションの感想を教えてください。
水野:
作っている段階にはまだ見えなかったものが、映画が公開されてよりはっきりと見えるようになってきました。
劇場に足を運ばれた皆さんの表情やSNSで呟く言葉を見て「皆さんにとって『プリキュア』と過ごした時間ってこんなにも大切なものなんだな」と思ったり、「20年の間に一度『プリキュア』から卒業した方にもいろいろな物語があったんだな」と感じたり。想像もしていたけれど、実際は想像よりもはるかに大きな景色が広がっていました。
映画の公開後はうれしい言葉もたくさんいただくことができ、幸せな気持ちでいっぱいなのですが、もしかしたら5年後、10年後、この曲を違った形で聴いてくれる方、この映画を違った形で観てくれる人もいるのではないかという気もしています。
ここからまたストーリーが始まったんだと感じられた、本当に素敵な出会いになりました。
鷲尾:
まさか2曲もお願いできるとは思ってなかったので、「そんなことをお願いしちゃって、甘えすぎてしまって、すみません……!」と恐縮しつつも(笑)、改めて、いきものがかりさんとご一緒することができてよかったなと思っています。
映像と曲がこんなにもピッタリとイメージが重なるって、実はすごく難しいことなんですよ。それをこんなにも素晴らしい形にしていただけて、本当にありがとうございました!