いきものがかり × プリキュア
スペシャル対談

2023.10.14

――まずは、『プリキュア』シリーズ20周年の節目に、いきものがかりとコラボレーションをすることになった経緯を教えてください。

鷲尾:

20周年を盛り上げる企画の一つとして「アーティストの方とコラボレーションをしたい」というアイデアがありまして。
では誰がいいのかと関係者から意見をもらう中で、いきものがかりさんの名前が挙がったんです。ただ、お恥ずかしい話なのですが、私はもともと音楽に知見が深くはなかったので、実は最初はあまり理解できていなかったんですよ。
いきものがかりさんの楽曲は柔らかな印象が強いけど、『プリキュア』ってもう少し厳ついイメージなんじゃないかな?と。でも、「ブルーバード」という曲を聴いてそのイメージは一変しました。
「あんなに柔らかい曲をたくさん出していらっしゃる方が、こんなに厳つい世界観も描かれるのか!」とすごく驚いて、こういう曲もやられている方であればぜひともお願いしたいと思い、お話を差し上げたという流れでしたね。

――オファーを聞いたとき、水野さんはどんなお気持ちでしたか?

水野:

お声がけいただけたことがありがたかった一方で、プレッシャーを感じる要素がたくさんあるなと思いました。
20周年という大事なタイミングであることはもちろん、息子が幼稚園の頃はお友達が『プリキュア』ど真ん中の状態にいるのを直に見ていたので、彼ら彼女らにとって『プリキュア』がどれだけ大きな存在なのか、僕自身も肌で感じていたんです。
また、『プリキュア』はこれまでシリーズ作品としてミュージシャンとコラボレーションをあまりされていなかったということでしたので、そんな作品に僕らはどんな角度で入っていけばいいんだろう、と。
『プリキュア』を愛する皆さんに受け入れていただく形とはどんなものなのか、考えるところから始めました。

――ちなみに、もともと水野さんは『プリキュア』という作品にどんなイメージをお持ちだったのでしょう?

水野:

「うれしくて」の歌詞にも入れたのですが、キラキラというイメージが強かったです。あとは躍動感ですね。
キャラクターがスピード感を持って動き回っている印象があったので、詳しくお話を伺う前はカットの切り替えがたくさんできるようなアップテンポの楽曲が求められるかなと思っていました。
でも実際は、そんなシンプルなイメージではなくて。鷲尾さんからシリーズについての想いや楽曲のイメージを伺ううちに、僕の中の印象もどんどん変わっていきました。

――「うれしくて」「ときめき」の2曲について、鷲尾さんから水野さんへはどんなオーダーを出されたのですか?

鷲尾:

最初に「ときめき」を作っていただいたのですが、そのときには「 “自分である”ということを意図してほしい」とお伝えしました。キャラクターたち自身が主人公として輝いているから観ている方も応援しようと思ってくれるので、と。
出来上がった詞を見ると作品のエッセンスが見事に散りばめられていて、もうすごく驚きましたよ。私、打ち合わせのときはこんなに詳しく説明できていないんです(笑)。でも、水野さんが丁寧に解釈して、説明した以上のものを入れ込んでくださって。本当に素晴らしいなと思いましたね。

――鷲尾さんからのオーダーを受けて、水野さんはどのように「ときめき」を作っていったのでしょうか?

水野:

僕は『プリキュア』に対してまっさらな状態で飛び込んでいったので、まず『プリキュア』とはどういうものなのかを伺ったんです。
そうしたら鷲尾さんは、作品のスタート当時、女の子向けとされる作品でこれだけ格闘シーンがあるものは少なかったというお話や、「『プリキュア』では既存の“女の子”というイメージは関係なく、“自分がなりたいと思う自分になる”ということをメッセージとしている」というお話をしてくださって。それは歌の軸としてバトンを引き受けたいなと思いました。
僕は今の時代って、“自分で価値判断をすること”がしづらい世界だなと思っているんです。誰かが「あれは悪いものだ」と言うとみんなが「悪い」と思うようになってしまうし、誰かが「実はこんなにいいものがあるんだよ」と言ったらみんながそれに流れてしまう。
そして逆に“自分が好きだと思ったもの”を守り通せないこともあって、それはなんだか寂しいな、と。「他の人がどう言おうが、私はこれが好き」と勇気を持って言える世界であってほしいという想いを歌の中に入れていけば作品と繋がるのではないかと考えて、歌詞を書いていきました。

鷲尾:

私は特に「世界を愛せなくてもこころが悪いんじゃない」というフレーズが刺さりました。ただのワガママではなく、そこに至るまでの歌詞を踏まえたうえで聴くと、自分をきちんと肯定するというイメージが感じられて。
実は、『プリキュア』のスタッフの間で20周年のイメージポスターを作ろうという話をしていたとき、私は「だだっ広い荒野の中に一人ポツンとキュアドリームが立っているポスターはどうだろう?」と考えていたんです。
結局その案は絵として寂しすぎるという理由でボツになってしまったのですが(笑)、私の中でプリキュアはそれくらい“自分一人でしっかりと立っている”というイメージがあったんです。
だから、「誰に言われたわけでも、誰の意見を聞いたわけでもないけど、私はこうありたいんだ」ということを表現したかった。それがまさにこの歌詞の中に入っていると感じています。

水野:

第1稿を出したときは僕もまだ迷いが残っていて、もう少し聴く人に呼びかけるような形にしていたんですよね。「世界はいまきらめくよ あなたがそう決めたから」みたいに。
でも、初校を提出したら「もっと主体性を持った形がいいです」と言っていただき、最初の打ち合わせで伺ったことが全部一本の筋として繋がっていきました。
それで主語を全部「わたし」に変えて、聴いた人が主人公になれるような曲というゴールラインにたどりつくことができたんです。

――ちなみに、この楽曲は曲よりも先に詞を書かれたのですか?それとも先に曲から作られたのでしょうか?

水野:

普段はメロディを書いてから詞を乗せていくことが多いのですが、この曲に関してはあまり時間差はなかったかも知れないですね。

鷲尾:

曲調についても、相当難しいリクエストを差し上げたと思うんです。「アップテンポで」と言うわけでもなく、「絶対バラードで」と言うわけでもなく、「なんか大きい感じで」と(笑)。
今思い返すと自分でも「何を言っているんだ!?」と思うのですが、出来上がった曲には私がお伝えしたことが全部入っているんですよね。
最初は緩やかに始まり、どんどん盛り上がっていって、「私は私でいいんだ」という主張が入り、そのままスーッと終わっていく。「こんなことが本当にできるんですか!?」と思うようなことをされていて、いったいどうやって作ったのか気になっていました。

水野:

ちょっと恥ずかしい話なのですが……いろいろとメロディのネタを作っていて、一度休憩しようと思って風呂に入ったんですよね。そうしたら、そのときに頭の中に流れてきたんです。「こういう展開か!」と思って、すっぽんぽんのまますぐiPhoneに録音して(笑)。それを整理して作っていった感じですね。

鷲尾:

(笑)。

水野:

アップテンポ感もありつつ、ゆったりと言葉が聞こえるものにするとなると、最初の歌の形をどれぐらいのものにしておくかがすごく重要で。そこは迷った部分でした。
アップテンポにするならたくさん決めどころを作って手数を多くすればいいけど、あまり多くするとアップテンポになりすぎてしまう。
ただ、シーンが切り替わるようなイメージのメロディの場面転換は、プリキュアの躍動感を表す意味でもしっかりと入れていきたい。いろいろなパターンを何度も試しながらそのバランスを考えていきました。

――濃密なお話をありがとうございました。
インタビュー後編では「うれしくて」の制作について伺っていきます。

インタビュー 第1弾<後編>はこちら