precure genic × BIG BABY ICE CREAM、異色コラボに秘められた意外な共通点。

今年9月、「precure genic」の第二弾として、新丸子のアイスクリームダイナー「BIG BABY ICE CREAM」とのコラボショップが開催された。第一弾のファッションブランドやアーティストとのコラボに続き、『プリキュア』×アイスクリームという異色の取り合わせとなった第二弾。プロジェクトに込められた思いやその背景について、『プリキュア』シリーズの生みの親である鷲尾天・東映アニメーション執行役員兼エクゼクティブプロデューサーと、BIG BABY ICE CREAM代表の吉田康太郎が話す。

  『プリキュア』とユースカルチャーを繋いでいくプロジェクト「precure genic」は、今年3月のファッションブランドやアーティストとのコラボに続き、第二弾として新丸子のアイスクリームダイナー「BIG BABY ICE CREAM」とのコラボショップが開催されました。

鷲尾天(以下、鷲尾): 『プリキュア』シリーズはおかげさまで20周年を迎え、当時見てくださったお子さんたちも今は社会人になっています。そういう方が再び『プリキュア』を思い出して楽しめる企画を考えた結果、最先端のユースカルチャーを担う人たちとご一緒できたらということで、第二弾も盛況のうちに終えることができました。

吉田康太郎(以下、吉田): 「BIG BABY ICE CREAM」のコンセプトは、3世代にわたって楽しめる“アイスクリームダイナー”です。ただのアイスクリーム屋ではなく、みんなが好きな “アイスクリーム”と、地域性や独自性があって変わらない価値を提供するダイナーをかけ合わせています。20周年を迎えていろんな世代の方々に受け入れられている『プリキュア』は、僕たちが目指している姿に重なりますし、今回のコラボはすごくワクワクしました。

  「世代を超えて愛される」というのは、『プリキュア』とも通ずる部分がありますね。

鷲尾: 『プリキュア』が始まった当初は、とにかくお子さんがどれだけ熱中してくれるかを考えていました。放送を重ねていくうちに、お子さんが安心して見られる作品とは、保護者の方が「見ても大丈夫」と思える作品にするのが非常に重要だと気づいたんです。“食べること”も一緒で、保護者や周りの人が喜んで食べるものは子どもも喜んで食べますよね。『プリキュア』も毎年の積み重ねを通じて、大人や親になった時に再び出会って、それがさらに続いていくことで世代を超えて愛されるようになれたら嬉しいです。アイスクリームって食べる時にフワッと気持ちが高揚するじゃないですか。そんな気持ちになれるのが良いですよね。

吉田: 「BIG BABY ICE CREAM」という名前は、アイスを食べている時くらいは大人も子どもも"大きな赤ちゃん"になろう、という思いから来ています。お店を8年間やっていますが、店内で子どもが喧嘩している場面ってまだ一度も見たことなくて。アイスには人を幸せにする力があるように思えますね。

  『プリキュア』シリーズでは、「スイーツ」をテーマにした『キラキラ☆プリキュアアラモード』や「ごはん」をテーマにした『デリシャスパーティ♡プリキュア』をはじめ、食べるのが大好きなキャラも多く、食べることを大切にしている印象です。

鷲尾: 『プリキュア』の主人公たちは中学生くらいの設定が多いです。この年代の子はダイエットにも興味を持ち始める時期ですが、『プリキュア』は未就学児のお子さんを対象にしたアニメーションでもあります。保護者の方は子どもに対して「よく食べて大きくなってほしい」と願ってますし、仮に主人公を真似てダイエットなんてし始めたら心配になってしまうはず。そうした考慮の結果、みんなよく食べるようになりました(笑)。食べるときの幸せな気持ちと合わせて、食べ物と『プリキュア』の相性ってすごく良いんです。

『プリキュア』要素で特別仕様となった店内と、
アメリカンレトロタッチのキービジュアル

  「BIG BABY ICE CREAM」とのコラボショップでは、キャラクターをイメージしたアイスや飲み物、オリジナルグッズのほか、店内も「precure genic」仕様として数多くの趣向が凝らされていました。

吉田: 街角のいちアイスクリーム・ダイナーがアニメの要素を散りばめた空間になっていて、僕自身、足を踏み入れた時にすごくテンションが上がりました。床をイメージカラーに変更したり、厨房の窓にはメップルとミップルの後ろ姿が描かれていて、一緒にアイスを作る様子が見られます。実はかなり細かいところまでギミックが仕込まれていて、お客さんも楽しんでくれていましたね。

鷲尾: 店内に入った途端、高校生か大学生になった(キュアブラックの)なぎさがアイスクリーム屋さんでバイトをしているイメージがパッと湧いてきました。なぎさだったら、バイト帰りにアイスを自分用に1個買ってメップルと奪い合ったり、遊びに来た(キュアホワイトの)ほのかにサービスしすぎて店長から怒られたり……お店全体から彼女たちが存在している雰囲気を感じられてワクワクしましたね。

  本コラボのキービジュアルは、アメリカンレトロ風で普段の『プリキュア』とはまた違った印象を受けます。

吉田: 今回のキービジュアルを初めて拝見した際に、僕たちのお店にも通じるものがあると感じました。「BIG BABY ICE CREAM」は僕が23歳の時に兄と一緒に新丸子で始めたお店で、僕らが大好きなアメリカの画家ノーマン・ロックウェルの「レモネード・スタンド」という絵に影響を受けています。レモネードを売る少年たちの姿が描かれた絵で、自分たちもこの地域でそんなふうになりたいと思ったんです。そういう意味でも、すごく気に入っています。

鷲尾: なんと、そうでしたか……! ノーマン・ロックウェルやエドワード・ホッパーのテイストですよね。いや、というのも実は『ふたりはプリキュア』の制作時、監督を務めた西尾大介さんが「ロックウェルの絵を参考にしてキャラを起こす!」と言って、スタッフ全員でロックウェルの絵を研究していたんですよ。今回のキービジュアルを見た時に、まさかここに来てそのテイストが蘇ってくるとは! と驚きました。

自分らしさや好きを貫くためにコンビだからこその強さ

  「precure genic」プロジェクトのテーマは「自分らしさの表現」です。「自分らしさ」をテーマに据えている理由はなんでしょう?

吉田: 「らしくある」と聞くと難しく考えてしまいがちですが、自分の考えを肯定してあげることが重要だと思っています。初期の頃に作品のテイストとして取り入れようと話ていたのは「自らの足で凛々しく立つ」ということ。放送開始の20年前は、女性の自立に対する社会の空気が足りていない時代でもありました。

メインの視聴者は子どもだとしても、自分で決めて動くことの大切さをイメージとして伝えることで、大人になってから「昔、自分が憧れたキャラはこういうふうに頑張ってたんだ」と思ってもらえたら、社会に対して少しは影響を与えられるかもしれない。……と、私がそんなふうに考えるようになったのは結構後からなんですが(笑)。監督の西尾さんは最初からきちんと考えてくれていましたね。

吉田: 「自分を否定しない」というのは、お店ともつながります。僕ら兄弟2人が今まで見てきた・食べてきたモノやその時の感情、考えた時間や経験が結果的に自分らしさにつながって、僕らであればアイスクリームやお店という形でモノを作る時に出てくるんだと思います。

開店前後は「新丸子でアイスクリーム専門店なんて絶対上手くいかない」という声がすごく多かったんです。でも、僕らは好きなモノに対して、自分たちの「らしさ」を貫いて新しいモノが生まれたら、という思いがあるから続けられています。今ではこの地域のラジオ体操の皆勤賞の商品がうちのアイスクリームになったり、少し遠くの地域から「うちで職業体験をさせたい」って連絡をいただいたりして。そうやって色々な経験が今につながってきてるんだ、とも思います。

僕たちは兄が健太郎で僕が康太郎で、周りからは「健康太郎」って呼ばれていて、一人だと挫けそうでも2人でやれたのも良かったですね。うちの母が今回のキービジュアルを見たら、ほのかとなぎさの姿が僕と兄にダブって見えるかも(笑)。

鷲尾: 『ふたりはプリキュア』で主人公をコンビにしたのは、当時の少女向けアニメではあまり主人公コンビが描かれていなかったからで、コンビとしての仲の良さや喧嘩といった「2人だけのチーム感を描いたら面白いんじゃないか?」という思いもありました。私は根拠もなく面白そうだと思っていただけですが、監督の西尾さんと一緒になることで形に出来た。チームだけどコンビでもあって、ああだこうだ言い合いながらも前に進んでいく感覚は吉田さんたちと一緒なんじゃないかと思いました。

  今回のコラボには意外な共通点が数多くあったのですね。最後に、「precure genic」プロジェクトについて、ファンに向けて鷲尾さんからメッセージをお願いします。

鷲尾: 今後もいろんな形で多くの世代の方に『プリキュア』を思い出してもらって、改めて視聴してもらえるように取り組みを続けていきたいと考えています。よりコラボレーションの幅を広げて、いろいろなチャレンジができると思いますので、引き続き楽しみにしてもらえると嬉しいですね。

INTERVIEW & TEXT : MICHI SUGAWARA
EDIT:KENTARO OKUMURA
PHOTO : YASUYUKI KANAZAWA

©︎東映アニメーション

SNS SHARE